《アル共杯/みやこS 回顧》非ディープ古馬が主役を張る今年のJCが暗示するものとは
2歳戦は別個で。書きたいことが山々です。
アルゼンチン共和国杯
アル共にしてはスローでレースの上がりが46秒6-34秒2、例年より時計が掛かる馬場でのこの数字ですからタフナ東京2500でも上がりの競馬になったと言えるでしょう。
シュヴァルグランは、ハーツクライ×ハルーワスウィートですからジャングルポケットやルーラーシップ≒ドゥラメンテと同じトニービン×Nureyevで、NasrullahとHyperionとFair Trialが脈絡するので合わないはずがなく、ヌーヴォレコルト(Nureyev)、アドマイヤラクティ(Fairy King(≒Nureyev))と当然のように結果が出ています。
この持続力≒スタミナもあるのですが、それ以上に「父中長距離馬×母父マイラー」という配合系、Halo≒Red God3×4・5・5らしい機動力が際立っており、阪神大賞典はまさにそれ。
単純に「4歳秋のハーツ」という点でもJC→有馬は楽しみですし、トニービン×Nureyevで前出した馬たちはみんな東京のGIで結果を残していますからね。やはりハーツ、トニービンは京都より急坂のある東京です。
懸念材料をあえて挙げるとするならば、望田先生が言われているように「近年のJCは牝馬の斬れが勝ち切ることが多い」ことでしょう。しかしキタサンブラック、ゴールドアクター、シュヴァルグラン、こういうディープ産駒以外ではない「2500以上ドンと来い」型が主役を張るJCはかなり楽しみです。
ハーツと同じ「母父トニービンの種牡馬」といえば2着アルバートもそうで、これはFall Aspenやトニービンやダンスインザダークやノーザンテーストやガーサントのスタミナが伝わっているステイヤーでステイヤーズSを制しているが、体型や走法は外回り向きで(2400だとさすがに斬れ負けするので)東京2500はおそらくベスト。有馬は小回り、春天は京都ということで、フェイムゲームやアドマイヤラクティらと同じくGI級の能力を秘めているけれど日本で勝てそうなGIがないタイプ...。
悔しいのは3着ヴォルシェーブで、ヴェイルオブアヴァロンはサンデー系ならばBurghclereのHyperion、Donatello、Fair Trialを増幅できるアグネスタキオンかネオユニヴァースが配合相手としてベストで、且つこういう重厚な血なので牡馬で馬格があった方が良い...とするならばリルダヴァルの活躍も、本馬の活躍も順当です。55キロなら勝ち切ってほしかったですし、せめて賞金加算出来れば有馬の穴として期待大だったのですが...
モンドインテロは順当な4着だと感じました。メトロポリタンSも低調なメンバー構成でしたし、現状は精一杯かと思います。
目を引いたのはレコンダイトで、目黒記念の内容からもコースベストなのは分かっていましたが直線のフォームは完全にMill Reefだと感じましたね(母モテックはMill Reef3×3)。
触れなければならないワンアンドオンリーは、改めて言うまでもありませんが柴山騎手の談話が全てを物語っています。「飛びが大きいから徐々に上がって行きたかったけど、なかなか外へ出せなかった。ヨーイドンの競馬では厳しい」それでもJCで全てが噛み合えば掲示板は来ても驚きません(まず出るか分からない)。
みやこステークス
先行馬多数で、昨年(ロワジャルダン→カゼノコ)をみても一昨年(インカンテーション→ランウェイワルツ)をみても、本質的には大箱が合いそうなストライドで走るアスカノロマンがこれまでのように外3番手から押し切れる流れにはならないと見込み、狙いは小回り向きの差し馬ということで、小脚で差して来るロワジャルダンとカゼノコを2頭軸とした馬連フォーメーション総流しという組み方をしていたので悔しいロワジャルダンの3着でありましたが狙いは間違ってはいなかった...
アポロケンタッキーがこれだけの骨格でも捲れたというのは、ナスキロのニアリークロスは豊富でも、ナスキロ的な前駆のストライド走法ではなく前脚が伸びきらないのは、West×Salt Lakeの母Dixiana Delightが持つTom Fool5×6やRibotの影響でしょう。スタミナは3代母SlinkyladyのRibot4×5・5も効いているんでしょうかね。
グレンツェントはネオユニヴァース×Kingmamboで、ポインテッドパスの持つHyperion、Donatello、Fair TrialをMiesqueで増幅、強いクロスを持たないネオユニヴァースにNorthern Dancer4×4の母ボシンシェというのも良いのかもしれません。いずれにしても持続力に富んだタイプですが3歳でこの競馬ができれば前途洋々。さらにタフな条件&相手強化のチャンピオンズでは3歳馬ということで割り引きたいですがきっと今後4年くらい一線級で走り続けるんでしょう。
ロワジャルダンもキングカメハメハ(Miesque)にスキーパラダイスだからHyperionとFair Trialを増幅した配合した配合で、キャプテントゥーレのように粘着力が武器の配合だし、そういう馬が完成するには時間が掛かります。まだまだ化ける可能性は秘めた馬だと思います。「冬場が良い」とも陣営は話していました。
アスカノロマンは南部杯の疲労もあったかもですが、フェブラリーで好走したようにSecretariat5×5を感じさせるストライドなので大箱向きで、内回りで好走するにはストライドロスがないように外目を先行か、猛烈なハイペースでの「漁夫の利追い込み」です。
しかしアル共回顧でも書きましたが今年のJCはいつも以上に長距離質の人気馬になりそうで楽しみです。
キタサンブラックは、Burghclere(Donatello(Pretty Polly)、Hyperion、Fair Trial(Lady Juror))をノーザンテースト、Lyphard、Wordenらで増幅した粘着力が武器。
ゴールドアクターは、あの独特の柔らかさは母母の異系の影響だろうなと思っていましたが、どうもその個性は私には解釈しきれないので望田先生の秀逸な表現を引用させてください...
ゴールドアクターのレースぶりには、母父キョウワアリシバの父Alysheba、Alydarの代表産駒でBCクラシックやKダービーなどに勝った北米年度代表馬の影響が強く感じられます
急坂と洋芝と内回りに強いのはAlydarらしいのですが、Alydarよりももっと重厚にジワリと捲り上げるような、もっと長距離のスタミナに寄っているというイメージの血なんですね
シュヴァルグランはトニービンとNureyevでHyperionとFair Trial(Lady Juror)を増幅している点はキタサンブラックと同じですが、トニービン×Nureyev+Blushing Groomはジャングルポケット的なナスペリオン(NasrullahとHyperion)の斬れが引き出されるので東京ならこっちか。
しかし非ディープの古馬3頭が主役を張る今年のJCは、90年代はじめに日本の競馬が世界レベルに達してから、サンデーサイレンスが導入され芝が改良されスローペースが多くなった2000年代後半、そしてさらに拍車がかかった2010年代前半~今日の日本競馬において、ディープでなくともこの特殊な日本の芝痛長距離でチャンピオンになることができるようになりましたよ、つまり、瞬発力に優れた血でなくても、好配合のアイリッシュダンス(ハーツクライ)やTom Fool≒Spring Run2×3のモデルスポートを母に持つダイナアクトレス(スクリーンヒーロー)やそしてウインドインハーヘア(ブラックタイド)のように、遺伝子レベルが高ければ、時間とともにその土地の競馬に対応するのだ...ということを暗示しているのではないかと思うのです。
ディープの鬼門だった皐月賞と宝塚記念(しかも道悪)を所謂「ディープらしくないディープ」が制し、キタサンブラックやメジャーエンブレムという、粘着系が台頭した2010年代後半でもあります。
と、これはマーベラスクラウンのJCを観ていてふと思った...
ナスペリオンといえば、エリ女のシュンドルボンがそうで、東京1800のスローで上がり最速というのは前哨戦としては十分。雨で馬場が渋ればさらにですが、2200なら京都の良馬場でも人気以上は走るんじゃないでしょうか(昨年は11番人気で0.2秒差7着)。
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【参考】
『日本サラブレッド配合史―日本百名馬と世界の名血の探究』(笠雄二郎著)
望田潤さんのブログ http://blog.goo.ne.jp/nas-quillo
栗山求さんの連載「血統SQUARE」http://www.miesque.com/motomu/works.html
『覚えておきたい 日本の牝系100』(平出貴昭著)