《秋華賞》ハイインロー(HyperionとSon-in-Law)的な名馬と、ビッシュ/キンショーユキヒメ/レッドアヴァンセ/ダイワドレッサーの話
望田先生が、一昨年やられていた『血統クリニック』は、まさに『「血統表と現実に何が表出しているのかとのすり合わせ」によってその馬の真実に迫ろうとする』ということを体現しているものとして、完璧すぎるコンテンツで、競馬の読み物でこれほど唸ったことはありません。
いつかこんなような文章が書けるようになりたいな、と思いながらこのブログも書いています。
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Lady Jurorの、Lady JosephineのスピードとSon-in-Lawのスタミナによる粘り、さらにHyperionが加わった、所謂「ハイインロー」に因る粘着力は、「強さ」を感じさせます。特に日本だと、一層強く見える。それは、日本で活躍しやすい(=スピード、瞬発力型)馬が好走しにくい流れで好走するから。
バブルガムフェロー、ハーツクライ、ダイワスカーレット、キタサンブラック...この名馬たちの、粘り腰、粘着力の根源は全てHyperionとLady Jurorということになります。
バブルガムフェローとハーツクライは、サンデーサイレンス産駒で母系にLyphardを持つという共通点があります。
LyphardはNorthern Dancer(父母父Hyperion)×Court Martial(父Fair Trial←Lady Jurorの代表産駒)のハイインロー血脈
「サンデー×Lyphardならば、母系にもうひとつHyperion的な血がほしい」というのは望田先生がよく書かれていることで、バブルガムフェローはサンデー×Lyphardで母母父PriminerがHyperion3×3、ハーツクライはサンデー×母母父Lyphardで、母父トニービンはHyperion5×3・5、Fair Trial6×5
バブルのHペース秋天の抜け出してからの粘り、ハーツのディープを封じた有馬記念、アスコットでHurricane RunとElectrocutionistと、スタミナを一滴残らず絞り切ったあの粘りはまさしくハイインローらしいもの。
ダイワスカーレットは、父アグネスタキオンの母母アグネスレディーがLady Juror5×5、Hyperion5×5、母父ノーザンテーストがHyperion4×3
(同じタキオン産駒のキャプテントゥーレは、母エアトゥーレがトニービン×Lyphardで、4代母Mississippi SirenがHyperion4×5、内回りでのあの粘りは当然)
メジャーエンブレムも、ダイワスカーレットと同じようなことやってます。
キタサンブラックは、父ブラックタイドの母母BurghclereがFair Trial5×5・5、その母母HighlightがHyperion3×2で、BurghclereにAlzao(父Lyphard)を配されたのがウインドインハーヘア。
母シュガーハートはサクラバクシンオー(母父ノーザンテースト←Hyperion4×3)産駒で、キタサンブラック自身はLyphard4×4
サクラバクシンオー×ジャッジアンジェルーチらしい、母母オトメゴコロ→母シュガーハートらしい軟質なスピードばかりに目がいっていたけれど、やはり春天と宝塚の粘り腰はハイインロー的なもの。
と、ふつう、日本競馬で活躍するような馬は、彼らの得意とする流れ(所謂、前傾戦や上がりの掛かる競馬)で早め先頭抜け出したら、垂れてしまいますから、とてもとても強くみえますし、「持っているすべての力を振り絞った感」がするので、レースが終わった後、みているこちらも気持ちが良い。
というのは、やっぱりビッシュの自分から動いて好走したオークスと完勝した紫苑Sは、Lyphard4×5なのだなぁと思ったからです。(だからやっぱり同じディープ×Acatenango×母母ハインンローのワールドエースは中距離王者)
そして、アップルティー(マドモアゼルドパリ←マキシマムドパリの母)産駒のキンショーユキヒメは、KashmirのHyperion4×4、Lady Juror5×5を、父メイショウサムソンが内包するSadler's Wells(Hyperion4×5で、母母父ForliはHyperionとLady Juror内包)で増幅しているから、キングカメハメハ(Nureyev)×アドマイスのマキシマムドパリと同じで、内回りのハイペースでこその馬なんだろう...と。
Lyphard4×3のレッドアヴァンセは、Alzao≒ダンシングブレーヴ3×2でもあり、Lyphardらしさを逸脱した斬れ味をみせたディープインパクトとダンシングブレーヴだから、らしい斬れも兼備していますし、この組み合わせはいつか、ディープインパクトとダンシングブレーヴのような大物を出す可能性があると思っています。
(だから、ディープ×Acatenango×ダンシングブレーヴで、ビッシュ+レッドアヴァンセみたいなサトノキングダムはヤバいって)
ダイワドレッサーは、ネオユニヴァース(母ポインテッドパスはHyperion5×4、Lady Juror7×6)に母母エアリバティーがトニービン(Hyperion3×5・3、Fair Trial6×4)×ノーザンテースト(Hyperion4×3)だからそういう馬で、父中長距離馬×母父短距離馬の配合系だから小回り向きの立ち回りの巧さもあります(同い年の石川裕紀人騎手での秋華賞楽しみにしていた...)
ウマニティさんへ入稿するコラムを書いていて、改めて、ベタですが「血統って奥深いなぁ」と思いました。
あぁ、今年のダービーはサトノキングダムだって話をした時に、「サトノキングダムの血統のどこがいいんですか?」と訊かれて、それには『日本サラブレッド配合史』の「Lady Josephineの誕生」から勉強しないとならないので、理解するまで半日くらいかかるかもよと言おうとして言わなかったことを思い出した(^^;
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【参考】
『日本サラブレッド配合史―日本百名馬と世界の名血の探究』(笠雄二郎著)
望田潤氏のブログ 血は水よりも濃し 望田潤の競馬blog
栗山求氏の連載『血統SQUARE』http://www.miesque.com/motomu/works.html
『覚えておきたい 日本の牝系100』(平出貴昭著)