美しさの論理
いやぁ、驚いた。何に驚いたかって、ステイゴールド×タニノギムレットといういかにも好相性そうな配合の第1号がパフォーマプロミスだったということだ。もっといそうなものだが。タニノギムレットは言わずもがなGraustark3×4、Romanも考慮するとKelley's Day≒Flaxen2×3という刺激的な配合で、この英国伝統的スタミナ&米硬派パワーがステイゴールドに合わぬわけがない。しかし実馬はいかにもステイゴールド、キタサンブラックにも共鳴するPrincely Giftらしい柔らかさが表現されていて美しい。オルフェーヴルやナカヤマフェスタと共通する、望田先生のいう“柔”と“剛”の絶妙な発現具合というものだろう。
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ハーツクライが好きだ。4歳時のジャパンカップで追い込んでアルカセットの2着、そして次走の有馬記念でアッと驚く先行策でディープインパクトを破り、翌春のドバイシーマクラシックでは2400の大箱を逃げ切り、アスコットでのキングジョージでHurricane RunとElectrocutionistとスタミナを一滴残らず搾り取られる伝説的三つ巴をみせた。
サンデーサイレンスは肌馬を活かす種牡馬だ。ハーツクライの母アイリッシュダンスはトニービン×Lyphardである。エアグルーヴやジャングルポケットという東京で斬れたイメージがある種牡馬トニービンであるが、その斬れの源はNasrullahとHyperion、つまり母父Hornbeamに因るものだ。トニービンのHornbeamを増幅した最高の成功例はドゥラメンテだ。
他方トニービンはHyperion5×3とFair Trial6×4である。HyperionとFair Trialといえば、英国の伝統的なスタミナ血脈であり(Fair TrialはLady Josephine的スピードも伝える2面性のある血だがここでは便宜上Son-in-Law的スタミナを伝えるということにする)、キタサンブラック持続力粘着力も、ダイワスカーレット≒ダイワメジャーの持続力粘着力も、サトノクラウンのスタミナも、全てHyperionとFair Trialに因るものだ。
話をアイリッシュダンスに戻そう。母父LyphardはNorthern Dancer(Hyperion保有)×Court Martial(←Fair Trial)であり、HyperionとFair Trial的な粘着力が本質である。そこにトニービンを合せるとHyperionとFair Trialのクロスとなり、JC→有馬でのハーツクライの変貌ぶりは、“アイリッシュダンスの仔がGI馬になるにはこれしかない”という血統どおりの事象であった。
あの粘着力持続力スタミナが美しく、好きだ。
展望と回顧 ~ 京成杯
近藤英子氏の馬名のセンスは大好きですが、イェッツトはなんだろう。タイムフライヤーやディーマジェスティのように、素人目にもハッキリとパワーの発現が確認できればよいのだけれど、トニービンをSadler's Wells≒Nureyev、さらにキンカメ内包のHornbeamで増幅したようなドゥラメンテ的な皮膚の薄さともとれる。
それでも、中山1800という器用さが求めらえる屈指の舞台でスッと先行でき、抜け出すことができたというのは、トニービン的というよりSadler's Wells≒Nureyev的バレークイーン的アンライバルド的コディーノ的、つまりFairy Trial的な小脚使いと見るべきなのだろうか。バレークイーン+Robertoという観点でみればヴィクトリーでもある。ならばコースは良い。
ダブルシャープのクローバー賞、タワーオブロンドンを内から差し返したキタサンブラック2016春天的勝ち方は強い勝ち方だ。母系の奥に強力な硬派な米血パワーが凝縮されていて、そこにKris≒Busted1×4のBehkaraを母に持つベーカバドが配され、母メジロルーシュバーのアグネスレディーやGraustarkのスタミナを掘り上げたようなイメージがある。
ジリ脚の中距離馬が外回りのマイル戦で善戦している、という解釈ができるサウジアラビアRCと朝日杯の敗戦で、ここはメンバー的にも期待できるのではないか。
余談になるが、例えばタニノギムレットはブライアンズタイム産駒ながらRobertoというよりもGraustark3×4というよりも、母タニノクリスタルのSicambreの斬れが引き出されていた、そしてウオッカもRobertoを持ちGraustark3×4のタニノギムレットを父とし、母系にトウショウボーイが入りながらも重厚な粘着質な馬ではなくRivermanの影響で美しい斬れを武器とする馬だった、エイシンフラッシュも血統表の中に僅かに眠るMr.Prospector≒Stay at Homeのスピードが発現し、キタサンブラックも明らかにBurghclereのスタミナが発現表現されている。
そういうことなのだ。
東大生だから優秀とは限らないように、ハーツクライだから中山はダメだ、ではなくって、それではタイムフライヤーとフラットレーが同じタイプの馬に見えるというのか。アットザシーサイドとハタノヴァンクールが同じタイプの馬に見えるというのか。私は先ほどタニノギムレットの件で述べたような、本質論を議論したいのだ。
私だっても競馬に興味を持ち始めたときは、ハーツクライだから中山はダメだ、といったような画一的な意見に感心していたものだが、それは初心者だったからだ。“血統”専門家なり予想家を名乗る者に、そんな画一的な意見は求めていない。このレースは“○○系”が強い、ではないのだ。“○○系”らしさが発現しているかどうか、“○○系”ではないけれど、“○○系”らしさがある馬はどれか、という進論にしなければ意味がない。
しかし商業的に画一論の方が便利であるということは理解している。競馬だけではない、世の中に蔓延する画一論は嫌なものだ。自由というのは苦しい。
【回顧】
展望と回顧 ~ シンザン記念
簡単に。
スターリーステージは配合は文句なしですがそれ故の過剰人気感は否めず、やはり全兄の3歳春が頭にありますからどうしても首をかしげたくなってしまう。
ファストアプローチは以下の望田先生の解説に納得で、マイルならば京都<阪神だろうし、マイルはそもそも疑問。相対的に持っているものが違うので好走はしても驚きはしませんが。
いかにもDawn Approachの仔らしいパワー体質とTom Fool的な脚捌きで中山や札幌を捲るファストに対し、タワーのほうは東京でルメールがジックリ差しに回るとなかなかの斬れ味を発揮
アーモンドアイはロッタレース(Nureyev×Sex Appeal)ですから硬派なイメージがありましたが、そこはさすがのロードカナロア×サンデーサイレンスで想像以上の柔軟性も発現していてこれかなぁという感じはしています。
プリュスはヴィクトワールピサのMr.Prospectorクロス+Mill Reef、つまりCount Fleetを増幅するパールコード的コウソクストレート的なピサの成功配合ですが、その走りは何と表現したら良いのか、何が発現しているのか私には分かりません。ただ京都は悪くなさそうに見えた。
注目しているのは、万両賞の勝ちっぷりから能力は確かなものがあるであろうヒシコスマーで、朝日杯は明らかにラストは気持ちが抜けていたので参考外、キタサンブラックとお味Lyphard4×3なので将来的には中距離の先行馬なのではないかと思っていますが(キタサンブラックも新馬は差し切りだった)、Bold Bidder、Riverman、さらにHaloとプレイメイトも血統構成が非常に似ていて日本の芝を走るのに重要な血ですからちょっと贔屓していきたい1頭
ツヅミモンはNijinsky4×4・4で確認したらそれらしいスペシャルウィークのような胴長体型だったので京都外回りをどう走るかは見物ではあります。よくみたらカタマチボタンの仔で2年連続ストロングリターンだったのですね。
ブランモンストルは柔らかいロードカナロアに母からSecretariatをもう1本持ってきて、フジキセキもあるのでMill Reefもクロスされ、間にクロフネの米硬派パワーを注入、そのバランスの良さはアーモンドアイなんあと被るところがあります。それでもクロフネが強そうで、そうとすれば京都<阪神ではありますが、この時期の3歳戦は早熟性≒パワーが重要なのでこれくらいの方が良いのかもしれません。
カシアスはDanzigパワーが出ていますのでやはりこの時期の3歳戦では見逃せず、外枠ですが小頭数で京都のラチ沿いでこの鞍上ですから注視はしておきたいですよね。ロジクライ的にね。
【回顧】
アーモンドアイは説明するまでもないですがロードカナロア×サンデーサイレンス×Nureyev×Sex Appealという良血ですがトライマイベスト≒ロッタレース5×2、なかなか強烈ですがNorthern Dancerに関してはサンデーサイレンスがハッキリとした1/4異系で、Northern Dancer+Sex Appeal的な頑強さとロードカナロア×サンデーサイレンスの柔軟性の発現が絶妙...という表現が合っているような気がします。
ツツジモンは馬場の恩恵もあったかと思いますが、何十年経っても京都外回りのNijinsky
カシアスは将来的にはしっかりスプリントに寄るんでしょうが、この時期の3歳マイルはやっぱりパワーの発現が大事、そして1回京都の浜中騎手
展望と回顧 ~ フェアリーS
明けましておめでとうございます。
今年は昨年にも増してマイペースでやっていきたいと思います。
有馬記念を振り返った時にすぐに頭に浮かぶのは2点
サクラアンプルールはノーザンテースト的なエアシェイディのようなピッチ走法でこの勝負服でノーザンテーストの影響が少なからずある馬が好走していれば非常に趣があったなあと思います。今年も期待の1頭
シャケトラは望田先生の回顧がやはり秀逸でした。
シャケトラはデビュー2戦目の上がりだけの競馬で取りこぼしたように、鋭敏な脚はないですからね
内回りなら残り800mを速-速-最速-遅みたいなラップで上がらないと
日経賞や宝塚記念のようなメリハリの効いた騎乗が必要なんでしょう。
フェアリーSは、全頭チェックして結論を出す、という気力はありませんが有力馬については少し書いておきたい。
プリモシーンはデインヒル経由(Burghclere≒Flower Bowlとなるのがポイント)のNorthern Dancer4・5×4のモシーンの仔で、Sir Ivor5×7・6もあり、剛(デインヒル)と柔(Sir Ivor)のバランスはダノンプレミアムと被るものがあります。
それ以上に未勝利の直線でみせたあの一瞬の脚、あれこそが3歳春に重賞で勝ち負けするのに必要なスピードというかパワーというか“早熟性”というもので、ピッチで走りますから中山マイルも対応できるディープで、このところは同じ“瞬発力を武器にするディープ産駒”でもStorm Catが入るマウレアとは異なる点です。
プリモシーンと未勝利で接戦を演じたテトラドラクマはルーラーシップ産駒でもNureyev≒Fairy King5×3が効いているのかリリーノーブルのようにピッチで走るタイプで中山も大丈夫。キングカメハメハは配合に素直でコディーノやアパパネやレッツゴードンキのような小脚で走るタイプも、ドゥラメンテやルーラーシップのようにストライドで走るタイプも出しましたがルーラーシップもそのようです。
トロワゼトワルは今年贔屓している1頭で、馬群に突っ込んで敗れたアルテミスSの敗戦は競走馬人生にとってもプラスとなるものでしょうが、この馬はロードカナロア、つまりMill ReefにStorm Cat、そこにCozzeneですから少なからずCozzeneらしいというかイスラボニータらしさを感じさせる体質走法で中山マイル替わりはプラスとは言えないでしょう。スイートピーSとかがすごく合っていそうなのです。
同じようなAlzao≒Storm Cat+CaroでもレッドベルローズはUnbridled(Dr.Fager≒Magic3×3)が入るのでそこまでナスキロらしさは感じませんが、それでもそれらしい緩さはあるかなぁ...
将来性が高いのはこれくらいでしょう。
【回顧】
プリモシーンは想像通りの走りで、やっぱりあのスムーズなコーナリングと短直線での加速は母のパワーをしっかりと受け継いでいる証。極端な例えをするならばアットザシーサイドくらいのイメージで、繰り返しになりますが同じディープならばダノンプレミアムやミッキーアイルと同じタイプ、逆にアユサン=マウレアやマルセリーナとは異なります。
トロワゼトワルは明らかに鋭利なコーナーで(望田先生が“ストライドロス”と呼ぶような)余計な負荷がかかっている競馬ぶり。そして母セコンドピアットもそうでしたが中距離馬な気がします。やはりスイートピー、フローラ、君子蘭賞あたりで注目。
超短考 ~ 有馬記念
何というかもう分かり切ったことではありますが、ヤマカツエース、トーセンビクトリー、シャケトラ、レインボーラインあたりが面白いところですが、トーセンビクトリーはこの血統でもさすがに格が足りないかという気もするし(しかし鞍上が天才)、レインボーラインは秋天で今秋の役目は終わった気も。
ヤマカツエースはKingmambo≒Ameriflora2×3なので爆発力というか想像以上の覚醒の可能性を秘めている馬という気がします。それが開花するのは来年の大阪杯あたりかなとも思うのですが。
シャケトラに関しては望田先生のコメントが興味深いです。
おそらくシャケトラは有馬ピークに持ってきたんでしょうね
ただどうなんでしょう、Woodmanが入って肉が多すぎるのがヴィクトワールピサとちょっと違うかなという気も
あと祐一が中山で捲る乗り役ではないのがね
好位ダラダラじゃなくハッキリ捲ってほしいんですよね