《回顧》第77回皐月賞 ~ 大種牡馬であることを再認識させられる皐月連覇
“もっとも速い馬を決める”というレースに相応しい激しいレースでした。
もう大して改めて書くこともなかったので、結局考察はレース1時間になりました(笑)
アルアインは母が強いクロスを持たず、Burghclere≒Flower Bowl3×4、前走の内容もなかなかでしたしなーんか気になるんですよね。
ただ、アルアインは前日の夜から妙に気になっていて、こんな風に書いておきました。
手元の新聞には、“アルアインのBurghclere≒Flower Bowl3×4”、“最も速い馬が勝つ舞台、母一流スプリンター”とメモしてあります。
カデナもファンディーナもBurghclereのニアリークロスは持っていますが、Burghclere≒Flower Bowl(Hyperion、Son-in-Law、Donatello≒Boudior(Flower Bowlの母母で、BlenheimとClarissimusがDonatelloと共通))という、名牝と名牝のニアリークロスというのは良いよなぁと改めて考えていました。
皐月賞レコードどころか、コースレコードタイの決着となったレースでしたからマイルで走ってきたスピードが活きたのも確かですが、やっぱりBurghclere≒Flower Bowlでしょうよ。
ただ、配合系でいえば、“母が短距離馬”というのはこれまで通りのディープインパクトのクラシック勝ち馬輩出の条件に合致しますが、“母がNorthern Dancerのクロス”や“Haloのクロス or ニアリークロス”も持ちません。改めてディープインパクトの大種牡馬っぷりを感じ、サンデーサイレンスの全盛期もこんなかんじだったのかなぁと想像してみるのでした。
“母のパワーを、HaloやSir Ivorの増幅ではなく、ディープインパクトが伝える柔軟性で中和した”という観点では、ジェンティルドンナやディーマジェスティ、青葉賞有力のアドミラブルと同じです(反対はヴィブロスやサトノダイヤモンド、)。
ペルシアンナイトはまたミルコ騎手の勝負強さが光る騎乗でしたが、本質的には皐月<ダービーだと思うんですよね。ただ、ローテーションが響きそうですね(逆に今回はローテーションが良かった)。
配合については、望田先生が非常に分かりやすくまとめられていますので引用しておきます。ハービンジャーって“デインヒル系”というイメージが強く、その割には斬れる産駒が多い、これは牝系の仏血の影響なのかなと思っていましたが、デインヒルの仔でもデインヒル産駒ではなくDansili産駒ですもんね。
・意外にナスペリオン的に斬れる
種牡馬ハービンジャーについてはもう一つ「パワーに長けるデインヒルの父系なので、東京を鋭く差すよりも中山を力強く捲るような脚質の産駒が多いだろう(捲るんジャー)」という仮説も立ててきました
これについては、たしかに京成杯を連覇するなど重賞勝ち4つのうち3つは内回り2000mなのですが、ペルシアンナイトやトーセンバジルのように大箱をストライドで差すタイプも思った以上に出ている印象
社台グループがハービンジャー購入を決めた理由のひとつに、父Dansili(ムーランドロンシャン2着、BCマイル3着)がデインヒル産駒にしては斬れるタイプでそこが日本向きじゃないか…という考えがあったようで、とするとハービンジャーが意外に斬れるのはDansiliが斬れるからではないか…という考えが頭をもたげてきました
そこでDansiliの血統表をもう一度見直してみると、前にも書きましたが、Dansiliの母HasiliはBlushing GroomとYoung Emperorという二つのナスペリオン血脈を持つんですね
┌Nasrullah
┌○
Blushing Groom
│ ┌Hyperion
│ ┌○
└△┌○
└△
┌Nasrullah
┌○
Young Emperor
└△┌Hyperion
└△
これがDansiliやハービンジャーの斬れの源ではないかと考えられるのです
上記代表産駒の血統表をみても、ベルーフ=ダイナサッシュ、プロフェットとペルシアンナイト=Nureyev、トーセンバジル=フジキセキと、大箱で斬れ味を発揮している馬はいずれも母系にナスペリオン血脈を持っています
こないだ栗山さんと『パーフェクト種牡馬辞典』の対談をやったときに「3歳のハービンジャー産駒はよく走ってて、特にノーザンファーム産の成績が抜群」と聞いたので調べてみると、ここまで22頭出走し15頭が勝ち馬、なるほど素晴らしい数字でした
そして各馬の血統表をみると、インヴィクタ(フジキセキとNureyev)、サトノアリシア(Lucky Gwen)、サトノリュウガ(エアグルーヴ)、モーヴサファイア(Chief's Crown)と、2勝している馬はいずれも母系に有力なナスペリオン血脈を持っており、エルフィン2着アドマイヤローザもサトノリュウガと同じく3代母がエアグルーヴなのです
このあたりは、デインヒル系ながら芝中距離をナスペリオン的ストライドで走るというハービンジャー産駒の特性を、育成側も理解してきたという部分が大きいのかもしれないですね
ディクタスを介したBarbra≒Doronicのニアリークロスとか、Shareef DancerのSir IvorやTom Foolをいじくる配合も狙いとしては悪くないと思いますが、ハービンジャーの一番のツボは実はナスペリオンだったのだ…というのが3世代の産駒をみての暫定的な結論
アーリントンCを重厚なストライドで差し切ったペルシアンナイトは追分ファーム産ですが、母母ニキーヤがNureyevのHyperionとNasrullahをクロスしていて、これも大箱の1800~2000mが合ってそうな馬です
ダンビュライトは強い競馬で、しかもファンディーナにプレッシャーをかけながらでしたから能力の高さは示しました。
パドックではクリンチャーが良く見え、“これはスピリッツミノル以上かもしれない(ディープスカイ産駒のGraustarkクロスの若葉S馬)”と考えていましたが見事な走り。Flower Bowl≒Kris≒Aureole6×5・4・7(Flower Bowl≒Kris≒Sauceboat6×5・4・4と表現してもよいかも)、これは菊路線で本当に楽しみな1頭です。
スワーヴリチャードは、右回りだと手前の替え方が下手だし、胴長だし、やはりダービーでこそだろうと思っていましたが、パドックを見ても誰がみてもわかる胴長体型。
“皐月賞で脚を余して負けたハーツクライ産駒”といえば、ワンアンドオンリーが思い出されますが、ダービーで初めて先行したワンアンドオンリーとは違いこの馬の場合は共同通信杯でも皐月賞でもスタート後先行しています。皐月を終えた段階で最もダービー馬に近い位置にいるのはこの馬になったでしょう(こんなに簡単にいく気はしないけど)。
ファンディーナは、使い詰め、そしてこういう初めての激しいレースでも大敗せず、しかも一瞬はオッと思わせてくれましたから誉めてあげたいです。体調重視でお願いしたいですね。
カデナは馬場を考慮して内から進出しましたが、カデナのレースにはなりませんでした。当然ダービーで!となりますが、自分でレースを作れないという弱点が“6月の良馬場の東京”でどう出るか...
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【参考】
『日本サラブレッド配合史―日本百名馬と世界の名血の探究』(笠雄二郎著)
望田潤氏のブログ 血は水よりも濃し 望田潤の競馬blog
栗山求氏の連載『血統SQUARE』http://www.miesque.com/motomu/works.html
『覚えておきたい 日本の牝系100』(平出貴昭著)