《天皇賞(秋)》名手が隠れた持続力を引き出す
天皇賞(秋)は一般的に最も馬が充実すると言われている「4歳の秋」、つまり「馬の個性が完成された時」に迎えるの最初の大一番であるから、毎年高揚感は相当なものがある。しかし、どちらかというと、馬の能力比較に重点を置いたレース考察をする自分にとっては、馬の能力差が大きいクラシック戦線の方が予想は当たりやすい。
天皇賞(秋)というレースは、非常に分かりやすく(だからと言って簡単というわけではない)、レース回顧はし易い。特に、昨年の望田先生のエントリーが極めて秀逸だったので(昨年もしたが)少し追記して今年も引用したい。
2000mという距離はマイルと2400mという競馬に置いて重要にされてきた距離の中間点にあるから、レースの流れ次第で色々なタイプの勝ち馬が出現することになる。
過去11年の秋天勝ち馬を血統・体質・走法・脚質などで大別してみると
・ピッチ群
05年ヘヴンリーロマンス…ゴール前1Fのラップ11.4をイン差し
09年カンパニー…11.6を中団差し
12年エイシンフラッシュ…11.8を後方一気
15年ラブリーデイ...11.6を中団差し New!
・ストライド群
07年メイショウサムソン…12.1を好位抜け出し
08年ウオッカ…12.6を中団差し
・ピッチだが東京向き群
10年ブエナビスタ…11.9を中団差し
14年スピルバーグ…11.9を後方一気
・Hyperion群
06年ダイワメジャー…12.5を直線先頭
11年トーセンジョーダン…11.8を中団差し
13年ジャスタウェイ…12.2を中団差し
昨年はクラレントの道中12秒台が3回も計測されるスロー、その前の年ががカレンブラックヒルの逃げで、こちらも道中12秒台が3回というスロー。さて今年はどうなる。
レースのカギを握るエイシンヒカリは(どうやら東京だと地下馬道で入れ込んでしまうようだが)、武騎手がいうように、控えても競馬ができるタイプだが、とにかく自分のリズムが重要な馬。控えても競馬ができるとはいっても、決してヨーイドンに向くタイプではないから、ベストは香港カップでみせた11秒後半を刻み続けるような逃げだろう。
となると、近年でそれに最も近い逃げをしたのはメイショウサムソンが制した07年のコスモバルク《12.9-11.5-11.7-11.6-11.9-11.9-11.9-10.8-11.3.11.6》だ。実際バルクも自身も5着に粘っているのだから見事な逃げだった(直線で右にヨレたのはさておき)。
勝ったのがストライドのメイショウサムソンで、ピッチのカンパニー(3着)の脚色が一杯になったところでアグネスタキオン×ベリファ(by Lyphard)でハイインローのクロスであるアグネスアークが差して2着。やはり、シルポートやトウケイヘイローほどの激流ならもちろんのこと(エイシンフラッシュが制した2012年は例外)、ミドルならばHyperionの粘りとスタミナが重要なのが2000mの天皇賞だ。逆に牝馬らしい斬れがモノを言うのが2400mのJC(望田先生)
ヒカリは1枠1番を引いたことで、さらに逃げる可能性が高くなったが、僅かながらハナを叩く可能性が残っているとすればロゴタイプとクラレントである。ロゴタイプはHaloクロスとNureyev≒Sadler's Wellsのニアリークロスを持つ小回り1800がベストなピッチ走法だし、クラレントも母のDrone≒デプス3×3的なスピードが持ち味だから、東京2000で好走するならば出来る限りスローに落としたいクチ(それを決め打っていたかのような昨年のクラレント@田辺騎手は見事であった)。
つまり、「ヒカリのハナを叩いてスローに落としてしまおうという逃げ」は、馬のリズムを大切にしたいヒカリが最内枠を引いた以上、ヒカリがハナを譲ることは考えにくいから、可能性が低くなっただろう。
モーリスもリアルスティールも東京2000ならスロー希望で、彼らがヒカリに付いていこうとしないならば、ヒカリが乱ペースで逃げなくとも、ロゴタイプやクラレントやモーリスやリアルスティールはエイシンフラッシュのが勝った2012年にシルポートから遠く離れた2.3番手を形成したカレンブラックヒルとダイワファルコンのように離れた2番手以下で「別の競馬=ヨーイドン」をしたがるのではないのか(ヒカリに楽逃げはさせないだろうとも思うが、じゃあ誰がいくのか?とも思う)。
ドゥラメンテ世代は、この秋が4歳秋だ。
アンビシャスは、一般的には「ディープ産駒らしい斬れ味」が持ち味の馬だと解釈されているかもしれないが、何度も触れてきたように、母がエルコンドルパサー(Special=Lisadell4×4・3+Flower Bowl)×カルニオラ(Tudor Minstrel5×5やCourt Martial+Hyperion8×6×7×5)と、キタサンブラックやダイワメジャーやダイワスカーレットやメジャーエンブレムの粘着力の根源と同じハイインロー(HyperionとSon-in-Law)が大量で、本来であれば前出した馬たちのような粘着力を武器とするタイプや、ズブい中長距離馬(全兄インターンシップはそう)に出るのにも関わらずこれだけの斬れ味を持っているというところがミソである。
だから斬れ味比べでも十分通用するけれど、本来は粘着力≒持続力が活きる流れこそがベストパフォーマンス発揮の場だろうし、実際重賞を制したラジオNIKKEI賞も大阪杯も先行していた。
今回は何といっても、彼をその大阪杯で先行させ、カンパニーを先行させて大成させ、ミツバで逃げ切った横山典弘騎手が鞍上である。勝負服的にも私が初めてリアルタイムで見た09年の天皇賞がフラッシュバックされる。
大阪杯では内から離れた外目2番手ですんなりと折り合ったように、周りに馬がいる方が掛かりやすいタイプである可能性があるから、外に馬がいないところで競馬がしたいはずだ。今回はフルゲートではないし、これはヒカリがやや後続を離した後ろの2~4番手集団で巧く折り合うというイメージも、少なくともフルゲート時よりはイメージできる。
繰り返しになるが、もしロゴタイプやクラレントやモーリスやリアルスティールはエイシンフラッシュのが勝った2012年にシルポートから遠く離れた2.3番手を形成したカレンブラックヒルとダイワファルコンのように離れた2番手以下で「別の競馬=ヨーイドン」をしたとしても、そうなったらなったらでヒカリの後ろの単独2番手が取れるし、もういっそのことアンビシャスはヒカリに付いていっても良い。
ヒカリの11秒台後半を刻み続ける逃げならば、レースの上がりは35秒前後、勝ち馬が先行集団から生まれるのならば、勝ち馬の上がりは34秒5前後。東京2000、天皇賞(秋)ということを考慮すれば、このイメージに最も合致するのはアンビシャスだ。ジャスタウェイだって、道中12秒台がないトウケイヘイローの逃げで覚醒したのだから。
アドマイヤデウスやサトノノブレスもそのイメージに合致しないわけではないが、勝ち切ることはないだろう。
サトノクラウンの血統はもう改めて書かないが、ナスキロラトロをベースとした、ブエナビスタ的マルセリーナ的で牝馬的な斬れを感じさせるから天皇賞というよりジャパンカップというイメージなのだ。今回は〇か▲に留めたい。東京は合っている。
まぁ土曜雨となると馬場は要チェックになりそうですがね...
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【参考】
『日本サラブレッド配合史―日本百名馬と世界の名血の探究』(笠雄二郎著)
望田潤氏のブログ 血は水よりも濃し 望田潤の競馬blog
栗山求氏の連載『血統SQUARE』http://www.miesque.com/motomu/works.html
『覚えておきたい 日本の牝系100』(平出貴昭著)