皐月賞短考
大学を卒業し、競馬とは関係ないが文章を書く仕事に就いた。ちょうど締め切り間際で忙しいが、休憩がてら皐月賞を考えてみたので簡単に記しておく。
ワグネリアンはマカヒキ的、早熟の2000ベストで春二冠で好走できるタイプだろう。
ステルヴィオは大箱1800がベストだろうから小回り2000の外枠でどうか。
オウケンムーンはジャングルポケットにエリシオだから、ジャングルポケットがNureyevでトニービンの斬れの源であるHornbeamを増幅したのを、エリシオ(父Fairy King=Sadler's Wells≒Nureyev)でやっている。これまでの競馬振りからも重厚斬れなので、中山よりは東京だ。
ちょっとここで頭に浮かんだのはゴールドシップだ。彼は持続力の王様で、走法的には大箱向きだが、皐月賞も有馬記念も究極の持続戦になった(強引に持続戦に持ち込んだとも言える)から勝利した。しかし、能力の違いで明け3歳冬には、不向きなはずの東京1800スローの共同通信杯も勝っている。
オウケンムーンがゴールドシップ級とは言わないが、今年の相手ならそういうことがあってもおかしくないのではないかとも思う。逆にダービーがスローになったらゴールドシップ的ディーマジェスティ的アドミラブル的遅刻(=エンジン点火が遅く脚を余して負ける)もあるんだろう。
ジャンダルムはマイラーらしい小脚を活かしてコディーノ的3着が限界か。
グレイルは3歳春の東京1800(共同通信杯)で凡走するのは当たり前で、そこを悲観する必要は無い。Hornbeamを増幅してトニービン的シュヴァルグラン的斬れとデインヒル+Roberto的ディーマジェスティ的小回り向きパワーも感じさせる馬。問題は昨秋からの成長力だ。スワーヴリチャード級なら本格化前も勝負になるのだがそこまでの馬かどうか。※まぁでもどちらかといえばデインヒル+Roberto的パワーが強いか。ならば舞台は合うはずだが。
同じハーツクライでもHornbeamを増幅しておらずRoberto的パワーで走るのがタイムフライヤーだ。まさに皐月賞タイプで、巻き返しは必至に思えるが。
それとダブルシャープは道悪もプラスだろうし人気以上には走る気がする。
今週の3歳戦短感
久しぶりに少し時間を掛けて競馬を考えていた。
あすなろ賞を逃げ切ったオルフェーヴル産駒エポカドーロは好きな配合だ。戦法を見てもフォーティナイナーの前向きさが出ているし、走法を見ても明らかにTom Rolfeの影響で肩が立ったピッチ走法である。しかしこの馬の妙は母母サンルージュがBold Lad(IRE)を持ち(Bold Ladの母母Fair AlyciaはAlycidon×Fair Trialというすごい配合!)、さらに母母Cairn Rougeがピットカーン産駒でFair Trial4×4、Donatello5×4であるということだ。ステイゴールド×メジロマックイーン×ノーザンテーストを更に増幅した唸れる配合である。こういう馬がクラシック戦線に居てくれると面白いものだ。
共同通信杯のオウケンムーンはジャングルポケットにエリシオ、つまりNasrullahとHyperionを増幅してトニービンを再現している。それらしく後躯で走るから直線が長く急坂があるのが良い。
サトノソルタスは、Burghclere≒Tropicana3×5のディープで、母のNorthern Dancerクロスはないが母父がLa Troienneパワー豊富だからPOGのころから注目していた。体質の弱い血統なので不安だが、賞金加算はさすがだ。
グレイルはシュヴァルグラン的NasrullahとHyperion斬れというよりはRobertoが入るのでタイムフライヤー的なパワー寄りのハーツクライにみえるが、この時期に先行できる力が付いていないということが分かった。タイプは異なるが昨年のスワーヴリチャードと比較してみればよい。
それはそうと、今まではジャスタウェイやヌーヴォレコルトやワンアンドオンリーやスワーヴリチャードのような配合で走っていたのに、同じ配合型とはいえないRoberto持ちのタイムフライヤーに続いてグレイルまでトップホースになってしまったら一流種牡馬を超えてディープのようなスーパーサイアーということになってしまう。これまでをみるとハーツクライは素晴らしい種牡馬だがスーパーサイアーではないので、そういう大局的視点からみてもグレイルは大物ではない、つまり古馬になってもジャスタウェイ的シュヴァルグラン的覚醒はしないのではないか、とみている。
と、もうここらで集中力が切れてしまう。もうすっかり競馬脳ではなくなったのだなぁ。クイーンCも考えていることはあるが気力が続かないので回顧を書きたくなったら書くことにする。
ハッピーグリン
セントポーリア賞を美しく差し切ったハッピーグリン(こういう良い意味で簡易な馬名は好きだ)はローエングリン×アグネスタキオン
ローエングリンはMill Reef5×3であって、Mill ReefとはNasrullahとHyperionとPrincequilloとCount Fleetであって、NasrullahとHyperionという点ではアグネスフローラと呼応し、NasrullahとPrincequillo(ナスキロ)という点では4代母Gold Beautyと強く呼応する
いずれにせよ、ローエングリンのMill Reef的な要素が発現しているのは確かで、いかにも東京の中距離は合っていたなぁという走りをしていた。最近の馬でいえばまるでサトノクラウンのようであった。
美しさの論理
いやぁ、驚いた。何に驚いたかって、ステイゴールド×タニノギムレットといういかにも好相性そうな配合の第1号がパフォーマプロミスだったということだ。もっといそうなものだが。タニノギムレットは言わずもがなGraustark3×4、Romanも考慮するとKelley's Day≒Flaxen2×3という刺激的な配合で、この英国伝統的スタミナ&米硬派パワーがステイゴールドに合わぬわけがない。しかし実馬はいかにもステイゴールド、キタサンブラックにも共鳴するPrincely Giftらしい柔らかさが表現されていて美しい。オルフェーヴルやナカヤマフェスタと共通する、望田先生のいう“柔”と“剛”の絶妙な発現具合というものだろう。
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ハーツクライが好きだ。4歳時のジャパンカップで追い込んでアルカセットの2着、そして次走の有馬記念でアッと驚く先行策でディープインパクトを破り、翌春のドバイシーマクラシックでは2400の大箱を逃げ切り、アスコットでのキングジョージでHurricane RunとElectrocutionistとスタミナを一滴残らず搾り取られる伝説的三つ巴をみせた。
サンデーサイレンスは肌馬を活かす種牡馬だ。ハーツクライの母アイリッシュダンスはトニービン×Lyphardである。エアグルーヴやジャングルポケットという東京で斬れたイメージがある種牡馬トニービンであるが、その斬れの源はNasrullahとHyperion、つまり母父Hornbeamに因るものだ。トニービンのHornbeamを増幅した最高の成功例はドゥラメンテだ。
他方トニービンはHyperion5×3とFair Trial6×4である。HyperionとFair Trialといえば、英国の伝統的なスタミナ血脈であり(Fair TrialはLady Josephine的スピードも伝える2面性のある血だがここでは便宜上Son-in-Law的スタミナを伝えるということにする)、キタサンブラック持続力粘着力も、ダイワスカーレット≒ダイワメジャーの持続力粘着力も、サトノクラウンのスタミナも、全てHyperionとFair Trialに因るものだ。
話をアイリッシュダンスに戻そう。母父LyphardはNorthern Dancer(Hyperion保有)×Court Martial(←Fair Trial)であり、HyperionとFair Trial的な粘着力が本質である。そこにトニービンを合せるとHyperionとFair Trialのクロスとなり、JC→有馬でのハーツクライの変貌ぶりは、“アイリッシュダンスの仔がGI馬になるにはこれしかない”という血統どおりの事象であった。
あの粘着力持続力スタミナが美しく、好きだ。
展望と回顧 ~ 京成杯
近藤英子氏の馬名のセンスは大好きですが、イェッツトはなんだろう。タイムフライヤーやディーマジェスティのように、素人目にもハッキリとパワーの発現が確認できればよいのだけれど、トニービンをSadler's Wells≒Nureyev、さらにキンカメ内包のHornbeamで増幅したようなドゥラメンテ的な皮膚の薄さともとれる。
それでも、中山1800という器用さが求めらえる屈指の舞台でスッと先行でき、抜け出すことができたというのは、トニービン的というよりSadler's Wells≒Nureyev的バレークイーン的アンライバルド的コディーノ的、つまりFairy Trial的な小脚使いと見るべきなのだろうか。バレークイーン+Robertoという観点でみればヴィクトリーでもある。ならばコースは良い。
ダブルシャープのクローバー賞、タワーオブロンドンを内から差し返したキタサンブラック2016春天的勝ち方は強い勝ち方だ。母系の奥に強力な硬派な米血パワーが凝縮されていて、そこにKris≒Busted1×4のBehkaraを母に持つベーカバドが配され、母メジロルーシュバーのアグネスレディーやGraustarkのスタミナを掘り上げたようなイメージがある。
ジリ脚の中距離馬が外回りのマイル戦で善戦している、という解釈ができるサウジアラビアRCと朝日杯の敗戦で、ここはメンバー的にも期待できるのではないか。
余談になるが、例えばタニノギムレットはブライアンズタイム産駒ながらRobertoというよりもGraustark3×4というよりも、母タニノクリスタルのSicambreの斬れが引き出されていた、そしてウオッカもRobertoを持ちGraustark3×4のタニノギムレットを父とし、母系にトウショウボーイが入りながらも重厚な粘着質な馬ではなくRivermanの影響で美しい斬れを武器とする馬だった、エイシンフラッシュも血統表の中に僅かに眠るMr.Prospector≒Stay at Homeのスピードが発現し、キタサンブラックも明らかにBurghclereのスタミナが発現表現されている。
そういうことなのだ。
東大生だから優秀とは限らないように、ハーツクライだから中山はダメだ、ではなくって、それではタイムフライヤーとフラットレーが同じタイプの馬に見えるというのか。アットザシーサイドとハタノヴァンクールが同じタイプの馬に見えるというのか。私は先ほどタニノギムレットの件で述べたような、本質論を議論したいのだ。
私だっても競馬に興味を持ち始めたときは、ハーツクライだから中山はダメだ、といったような画一的な意見に感心していたものだが、それは初心者だったからだ。“血統”専門家なり予想家を名乗る者に、そんな画一的な意見は求めていない。このレースは“○○系”が強い、ではないのだ。“○○系”らしさが発現しているかどうか、“○○系”ではないけれど、“○○系”らしさがある馬はどれか、という進論にしなければ意味がない。
しかし商業的に画一論の方が便利であるということは理解している。競馬だけではない、世の中に蔓延する画一論は嫌なものだ。自由というのは苦しい。
【回顧】